もしも母から「なんで今の若い子は結婚前に同棲するの?」と聞かれたら、こう答えようと思っている
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:佐藤穂奈美(ライティング・ゼミ)
「今の若い子ってさ、なんで結婚前に同棲するのって聞かれたんだけど、なんでかな?」
「誰に聞かれたの?」
「お母さん」
「で、なんて?」
「それがさ、お母さん、私が答える前に『まっ、住んでみないと相手のことよくわかんないか』って、勝手に納得してた」
そう言いつつアカリはくつくつ笑っている。
そんなところがアカリのお母さんらしい。
良い意味で単純というか、理解が良いというか。
アカリは3歳の頃からの幼馴染で、お母さんのこともよく知っている。
私とアカリの両親も仲良しな訳だが、子どものこととなると両家のスタンスは結構違う。
うちの親だったらこうはいかないだろうなあ……と我が家の様子に想いを馳せる。
たぶん、うちのお父さんだったら、結婚も考えずに彼氏を紹介したら投げ飛ばしちゃう気がする。いや、案外、お母さんのほうが面倒かな……。うちの親は、よくもわるくも真面目っていうか、固いっていうか。
ただ程度の差こそあれ、アカリの母の疑問は、世の中の50代の多くが抱く疑問なのかもしれない。20代の私たちは社会、つまりずっと大人の人たちから「ゆとり世代」なんて言われている。私たちはときに「ゆとりモンスター」というもはや理解不能な生き物扱いだ。たぶん、「大人たち」からすれば、同棲問題に始まり「なんですぐ転職するの? なんで会社の飲み会行かないの? なんで仕事ないからって定時で帰っちゃうの?」きっと内心、「なんで?」だらけのナゾの生き物なのだろう。
でも、わたしも思う。当たり前に思ってきたけど、わたしたち、なんで同棲するんだろ?
***
じいちゃん曰く、祖父母の頃は地域に世話焼きばあさんみたいなのがいて、結婚相手を見つけてくれたり、お見合いが主流だったらしい。遠い親戚同士で紹介し合う、といったこともあったみたいだ。お見合いして、うまくいきそうだな、と思ったら、何度か食事をしてあっという間に両家にご挨拶。同棲なんてそもそもする暇もなかった。じいちゃんたちが生きた時代は戦後のバタバタで「生きる」ということにとても忙しくて、恋愛を楽しむよりも、結婚して所帯を持って、子どもを産んで…… 社会の一員に早くなることが、暗黙の中に求められていた。じいちゃんたちは「生きる」ことにとても一生懸命だったから、そのことに疑問を持つこともなかったし、当たり前に受け入れていた。
その頃、結婚してないやつは「ちゃんとしてない奴」か余程変わり者くらいで、結婚は本当に「大人」になるための一種の儀式みたいなものだったのだ。「結婚」は社会の仲間入りをするために避けては通れないものだった。
もっと昔、ひいひいじいちゃんやその前のじいちゃんくらい昔、農業でも漁業でも家族総出で家業を手伝うのが主流であった。子どもは貴重な労働力だったから、子どもを産み育てる、ということは「家族」というひとつの経済圏を回していくために、なくてはならないものだった。
そうやって社会がまだまだ途上であった頃、きっと結婚は「生きるための手段」でもあって、なかなか自由に選択ができる余地のあるものではなかったと思う。きっと女性にとって、結婚とは生きるために、唯一自分を守る手段だったのではないか。「どこそこの奥さん」という社会という中に自分を位置付けるための唯一の方法。
だから私は東の果ての国で源氏物語が生まれ、遠い海を隔てたヨーロッパでシェイクスピアのロミオとジュリエットが爆発的に流行したのではないかと思っている。
わたしたちはずっと恋愛がしたかった。今も。ずうっと前のじいちゃんやばあちゃんも。運命の王子さまと出会えたらどんなにすてきだろうか。一目見た時からこの人こそが一生を添い遂げる相手だ、自分のすべてを捧げよう、とドラマティックに恋に落ちる瞬間を夢見ていた。そして、だいすきなその人と、しわしわのじいちゃんとばあちゃんになって、ばあさん、すこし食べ過ぎじゃないか? あなたこそまたおなかが出てきたんじゃないの? なんてばかにし合いながら年をとれたらどんなに幸せだろうと、いつの時代の男も女も憧れていたに違いない。
そんな風に夢を見ながら、ずっといろんなひとが一生懸命生きてきて今日につながっている。
そうして、わたしたちはとても豊かな社会に生まれた。ラッキーなことに。
***
じいちゃんはあまり言わないけれど、小さい頃の話を聞くとかつての日本には本当に大変な時代があったのだなあ、と思う。
たしかに私たちは「ゆとり世代」と何かと言われるし、なんかなよなよしたヤツらだって思われてるかもしれない。
だけど、ゆとり教育ってなんで生まれたのか。
昔、ベビーブームがあって、お受験戦争と詰め込み教育、誰もが競い合っている時代があって、その人たちが大人になった。
その人たちがふと思ったんじゃないのか。
「あれ、大変だったよなあ」、「自分の子供や孫には、もっと考える力を養えるような、そういう教育ができないかなあ」と。
だから、わたしたちの世代には、「総合学習」なんてものが生まれたし、カリキュラムも幅を持って作られた。
その結果はどうだろう。
大学生になった私の周りには、大学を作るんだって日本を飛び出しちゃうやつも、文学部だったくせにこれからは酪農だ! なんて言って北海道で酪農家になってしまったやつもいる。起業だって昔よりずっと簡単にできる。わたしたちゆとり世代は、ゆとり教育のおけがでちゃんと狙い通り「考える力」を身に付けた。
わたしたちは考える。
毎日考えている。
「じぶんたちは何ができるんだろう」
「じぶんたちが欲しい未来ってなんだろう」
だけど、考えた結果とった行動は、突拍子もなく見えるかもしれない。
だけど、だけど、実は私たちの「いま」は、ずっと前のじいちゃんたちが「こうだったらいいな」と思って、一生懸命作ってくれたものじゃないかと思うのだ。
「ゆとり世代」と「団塊の世代」とか。「今の若者は」とか「これだから年寄りは」みたいな言葉が世の中に溢れていて、本当は「ゆとり世代」って人格を持った人間なんてどこにもいやしないのに、気付いたら私たちは仲が悪いみたいに言われている。
そうじゃないのだ。
親が子どもの健康を願うみたいに自然に、わたしたちのずっと先輩たちが一生懸命社会を作ってくれたおかげで私たちは「生きるためだけ」に結婚しなくてよくなった。大好きな人と思う存分、恋をできるようになった。
「勉強する」ってなんだろうって考えてくれた人のおかげで、わたしたちは自分の頭で、自分の言葉で考えられるようになった。
「ゆとりは」とか「若い奴は」とか言われた時は、「なんだよ! なにもわかってないくせに!」と思ってしまうときもあるが、けれど、本当はちがうのだ。
この「いま」はかつてずっと前のじいちゃんやばあちゃんが憧れた「いま」なのだ。「こうだったらどんなにすてきだろう」と夢見てきた世界が、たくさんの人たちの人生を超えてやってきた。
だから、もしも私が自分のおかあさんに「なんで今の若い子ってすぐ同棲するの?」と聞かれたらこう答えようと思っている。
「おかあさんやおとうさんとか、じいちゃんやばあちゃん、もっとずっと前のじいちゃんやばあちゃんも、みんなが頑張ってきてくれたからなんだよ。だから、だいすきな人と心の赴くままに恋をして、暮らせる世の中になったんだよ。ゆっくりお互いを知って、知る時間を楽しみながら、一緒に暮らし方を探していけるような時代になったんだよ」と。
近頃では時代の流れるスピードも速くて、じいちゃんたちは孫たちの変化にさえちょっとびっくりしちゃうかもしれない。
だけど、我々ラッキーな孫たちは、まんまとじいちゃんたちの作ってくれたビッグウェーブにのって、こんどは、自分たちが「欲しい未来」を作るときが来たんじゃないか、そう密かに思っている。
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